[読む自転車] 佐藤 喬 『エスケープ』 ~ただの1レース、されど1レース。それはまるで人生の縮図の様。 

読書-本棚

佐藤 喬 『エスケープ』

内容紹介

2014年全日本選手権ロードレース。冷たい雨の中行われた当レースは、誰もが予想できない異例のレース展開となった。221.2km、5時間41分49秒にも及ぶ戦いの最中、主要チームと
選手たちは何を考え、どう走っていたのか? メディアでは報じられなかった、選手たちの知られざる思惑とドラマを描くスポーツノンフィクション。
サイクルロードレースでは、常に「逃げ」集団(エスケープ)が見られる。逃げとは、大集団から少数に選手が飛び出し、先行することを目指す。
逃げ集団の多くは、自チームにエースを助ける「アシスト」選手と一か八かの逃げ切り勝利を狙う選手によって構成され、捕まる運命にある。しかし、2014年の全日本選手権では
メイン集団が逃げ切りを許してしまった。
本書では、主要選手への取材に基づき、逃げ集団とメイン集団の中でどのようなドラマが展開されていたかを描く。

 

読む前は、「正直なところどうよ?」
読んだ後は、「物凄く面白いっ!!」

僕は自転車レースも大好きだけれども、競馬も好きだ。
寺山修司の『馬敗れて草原あり』という本に、こんな一節がある。

私は必ずしも「競馬は人生の比喩だ」とは思っていない。その逆に「人生が競馬の比喩だ」と思っているのである。この二つの警句はよく似ているが、まるでちがう。前者の主体はレースにあり、後者の主体は私たちにあるからである。
― 競馬場で逢おう/栄光なにするものぞ より―

この一節の「競馬」を「自転車レース」に置きかえてもみても、なかなか個人的には妙にハマっている気がする。
「人生が自転車レースの比喩だ」
そうなのかも知れない。日本ではまだまだ知名度の低い自転車レースだけれども、世界中で多くの人を魅了するには、そういった訳があるのかも知れないと考えさせられた一冊。

この『エスケープ』は2014年に行われた「全日本選手権ロードレース」を取り上げた一冊。
正直、読む前は結果も知っているレースだし、そんなに面白い中身ではないのではないかと思っていました。
しかし、読み始めるとその思いは消え、最後まで惹き込まれて読んでしまった・・・・・・これは面白いっ!!

照会文の中にもあるが、このレースの結果は自分の予想的には大外れ。競馬で言うと無印の馬が馬券圏内を占める結果に・・・・・・という感じ。
しかし、この本を読んでいくと、この予想しなかった結末は、最初からまるで定められた運命の様に、そしてそれは誰ににも悟られない様に、小さな偶然が必然的に結びついて組みあがった道筋の様。
誰が犯人か分かっているのにも関わらず、面白い推理小説を読んでいるかの様に。
選手へのしっかりとした取材、自転車競技への情熱、そして「全日本選手権」という特別なレースの緊張感。すべてが伝わってきて面白い。
自転車関係の書物を読むと、変な物語よりも、事実が面白いと思う。
やはり、「人生が自転車レースの比喩だ」という事なのかな。

また、自転車レースが好きになってしまった模様。

著者の佐藤 喬氏、全く存じ上げなかったが、関わった本は知っている本ばかり。
土井 雪広「敗北のない競技」も面白い一冊。
 

ちなみに、ハイライト動画は以下を参照。
読後に見ると、涙腺が・・・・・・

佐野淳哉、悲願の全日本ロード制覇!200Kmに及ぶ渾身の逃走劇!【シクロチャンネル】

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